モンゴルの羊が
スリランカでマンゴーをかじってみたら
vol.1 酒とココナッツと男と女
通算6年のモンゴル生活を経て、今度は南国スリランカに引っ越した!
マイナス30度から、プラス30度へ。
草原から、ビーチリゾートへ。
2つの国で出会った人々の暮らしを、いろいろな角度から眺めてみます。
草原から生まれるアルコール・エリート
モンゴルでの日々というと、酒がらみの情景ばかりが浮かぶ。
モンゴル人は、とにかく酒に強い。
彼らは、まだよちよち歩きの頃から草原搾り・発酵ホヤホヤの馬乳酒を飲み始める選ばれしアルコール・エリートなのだから。かわいかったよちよち歩きがいつの間にかヨロヨロになった頃、目の前に転がっているのは哺乳瓶ではなくウォッカの空き瓶。
そして私のような外国人は「チンギス・ゴールド」と綴られた黄金のウォッカ瓶を何本空けたかで、モンゴル愛と忠誠心が試される。少なくとも私はこれまでにそういったプレッシャーという名の期待(日本では「アルハラ」と言います)を幾度となく感じ、空き瓶を献上してきた。
ラテン系・新橋系カルチャー
酒に強いのは屈強なモンゴル人男性だけではない。女性も同じだ。同じどころか、ウランバートル中心部に並ぶ小洒落たバーやレストランに行けば、7割方が女子会のテーブルで埋まっている。
ボディコンシャスな服装で集まった彼女たちのテーブルでは、空の巨大ジョッキとワインボトルが次々とテーブル脇に追いやられていく。早口で語気の強いモンゴル語に酒が混ざると、喉の渇きが早まってさらに飲みたくなるのかもしれない。
女性たちの豪快な笑い声が飛び交うなか、アルコール残量1センチのグラスに気づいた最も声の通る1人が反射的にウェイターを呼んだ。コルクが抜けると共に歓声が鳴り響き、瞬く間に新たな空き瓶が増える。
爽快この上ない無限ループ。これがモンゴル人女性のアフター5だ。
元々モンゴル人はラテン系でアグレッシブだが「お酒の力」は彼らの情熱をさらに沸き立てる。カウンターを見れば派手な赤いシャツを着た男性が長身美女の瞳に話しかけ、ダンスフロアでは年齢など関係なく男女が躍り舞う。一歩外に出ればへべれけになったカップルやグループがもつれ合いながらタクシーに乗り込んでいる。
ん?ここは、新橋だったかな?あぁ、でもウランバートルには、駅も電車も無いんだった。終電無しの深夜0時。新橋以上に、夜は更ける。
スリランカのアルコール事情
さて、スリランカの酒事情はと言うと、どうもあまり盛り上がっていない。「ライオンビール」というスリランカのビールはスッキリとした後味でスリランカの蒸し暑い気候にぴったりだし、「アラック」というココナッツ酒をブレンドした蒸留酒は、こっくりとした味わいで度数(約33%)の割には飲みやすく美味しい。
「夏×ビーチ×ビール」とくればさぞアルコールが進むかと思いきや、スリランカに来てからすっかり飲酒量が減っているのはなぜだろうか。
アルコールよりココナッツ
1つ目の要因は、このじっとりとした暑さだ。立っているだけで汗ばむ気候では、ビールを飲むよりシャワーを浴びたい。そしてその辺で採れたらしいキングココナッツのジュースで体温を下げながら喉を潤したい。今の私の体には、酒よりもココナッツだ。
ちなみに、12月現在のモンゴルとスリランカの気温差は40度以上(モンゴル:-20度、スリランカ:26度)。寒いところでは、生きるためにもアルコールをより欲していたことがよく分かった。身体を芯から温めるため。そして、脳神経を乱して寒いことすら忘れ去ってしまうため。
財布と体に優しいノンアル生活
2つ目の要因は、スリランカの人たちがそもそもあまりお酒を飲んでいないことだ。スリランカにはタイやベトナムのような屋台文化がなく、人々が路上で食事や乾杯をしている光景は見られない。
レストランの数は多く外食機会は充実しているものの、お酒を売るには高額なライセンスが必要なので、多くの店が酒類そのものを提供していない(外の酒屋で買って持ち込みはOK)。
また、輸入品の酒類の値段が異常に高い。Made in Sri-Lankaの「ライオンビール」は200円程で飲めるのに、レストランでグラスワインを注文しようとしたら1杯1000円以上という驚きの値段だった。モンゴルのノリで飲んでいては、こちらも財布がもたない。「キングココナッツなら、1個60円だよ」「ヘルシーだし、肝臓にも優しいよ」・・・今日のところは、ノンアルでいこう。
スリランカで女子会を見ない理由
スリランカでは、モンゴルのような女子会を見かけない。敬虔な仏教徒が多いスリランカでは、「Poya day」と呼ばれるフルムーンの日を祝う。Poya dayは命あるものを一切口にしないのが基本ルール。もちろんお酒もNGだ。スリランカの人々、特に女性があまりお酒を飲まない背景には、宗教観に基づくところがが大きいのだと思っていた。
だが、スリランカに長年住んでいる日本人の方に話を伺ってみると「女子会を見ない」という現象は、宗教的理由よりもジェンダー格差によるところが大きいと分かった。衝撃的だったのは、スリランカでは1979年に「女性の酒類購入禁止法」が制定されていたという事実だ。この法律のせいで、女性がアルコールを買うこと、また、アルコールを提供するレストランなどで働くこともできなくなった。
保守層に大歓迎されたこの法律が社会にすっかり定着してから約40年後の2018年、当時の経済大臣がようやく「女性の酒類購入禁止法」を改正すると発表した。
お酒を飲まない人だって、きっときっと嬉しかったはず。飲むか飲まないかは自分で選ぶことができて、働き口の選択肢も増えるんだから。
そんな喜びも束の間、保守層からの猛反発によって、改正したはずの法律はたった4日で戻ってしまったという。
何事もなく自由を謳歌する男性たち。
またひとつ、選択肢を奪われた女性たち。
今日は金曜日。コロンボの夜は静かだ。
この記事はモンゴル貿易開発銀行東京駐在員事務所ウェブサイトに寄稿した2021年11月29日付の記事を編集のうえ掲載しています。
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