~ 脱いで 踊って 恋をして ~

vol.2 ウズベキスタン
ターコイズの空の下、ハマムで身も心もさらけ出せ

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3年ぶりのタシケント

「これが、あのタシケント・・?」

空港に降り立ったときの率直な感想だった。タシケントを訪れたのは3年ぶり。私の3年前の記憶では、薄暗い空港に降りたち、イミグレーションでは長蛇の列に並んだうえに、同じような質問を何度も繰り返されてげっそりして外に出たはず。

だが、今回のタシケントは違う。改築された空港は明るく清潔感溢れる外観に様変わりし、イミグレ地獄もないままスムーズに入国。人々の表情も心なしか柔らかくなっているような印象を受ける。そう、ウズベキスタンは、変わった。モンゴルがいつまでたっても新空港をオープンできないのに対し(2021年7月やっと開港)、ウズベキスタンの玄関はこんなにも華麗なる変身を遂げた。真正のモンゴル贔屓である私は、ウズベキスタンの進化を見せつけられて「頼む。頼むから頑張ってくれ、モンゴル・・・」と、知らぬ間に両手こぶしを握り締めていた。

空港を出ると、元同僚が待っていてくれた。今回のウズベキスタンの旅は、一緒に働いていた元同僚たちと友人。日本人離れどころか、もはや常人離れしたようなとにかく濃いメンバーが集まったので、面白い旅になることは間違いなかった。

ウズベク絨毯職人・ペチョンちゃん

タシケントからサマルカンドへ移動。サマルカンドは、ウズベキスタン屈指の観光名所にも関わらず、その日はあいにくの雨。おまけに、韓国大統領がやってくるとのことで、厳重警備のうえ道路が封鎖されてしまい、モスクにも入れない。とりあえず回れる名所を回って、一行は市場(バザール)へ。どこの国でも、市場から湧き出る地元の人の活気と熱気には胸が躍る。

ドライバー・アリのおすすめナッツ屋さん(単に知り合いの店)に連れていかれ、大好きなカシューナッツばかりを狙って買い込む。小腹が減ったので、またもアリのおすすめレストランでランチを食べたあとは、観光名所だというシルクと綿の工場へ。こういう場所は、大抵モノを押し売りされて散財する羽目になるから気乗りがしないなぁと思っていたけれど、ここで待っていたのは押し売り商人ではなく、「ペチョンちゃん」こと「シャハノザ」との出会いだった。

彼女はウズベク絨毯職人で、この工場で長いこと働いているという。私がお土産物のストールやらスカーフやらを試着していると、彼女がニコニコとやってきて、「ペチョン巻き」という巻き方を教えてくれた。それ以降、彼女の名前は「ペチョンちゃん」になり、何が楽しいのかも分からないまま、二人でゲラゲラ笑いながらペチョン巻きのファッションショーが始まった。何を言ってるか分からない。それでも、目と目を合わせるだけで幸せがこみ上げる。

こういう瞬間、人と人が仲良くなるのに人種も言葉も関係ないことを実感する。ウズベク語は全くできないわたし、日本語も英語も全く分からないペチョンちゃん。こんな二人が、少しの好奇心と小さなきっかけで通じ合う瞬間は、紛れもなく旅のギフトだ。この瞬間がたまらなく好きで、私はまた、旅に出る。

ブハラの良宿「ヤスミン」

サマルカンドの次はブハラ。ここでは、「ヤスミン」という宿に泊まった。日本贔屓なご主人のアリジャンは「君たち1泊しかしないの?2日目はタダで良いからサ。延泊していきなヨ!」としきりに勧めてくれる。ブハラの街を散策する前に、アリジャンの奥さんに「ウズベクメイク」をしてもらった。

ウズベクメイクのコツは、眉を漆黒ライナーで濃く、濃く、これでもかというくらい濃く描くこと。さらに、リップもしっかり濃いめに塗りたくる。これだけ盛れば、私でもエキゾチック感を出せるのではと期待して鏡を見るも、そこには眉毛と唇だけ異様に浮かび上がった、のっぺりした顔の東洋人の姿しかない。私の顔に、鋭利な眉毛が脚光を浴びる場所はなかった。「顔の造りだ、仕方ない」と自分に言い聞かせながら、心の中でそっと眉毛に謝罪した。

女の会話は世界共通

ブハラの街に一歩踏み入れると、吸い込まれそうなターコイズブルーと緻密なイスラム装飾に圧倒される。煉瓦造りの建物とモスクに囲まれながら、歩くだけで楽しい。一通り散策して、お土産を見て回り、少し遅めのランチへ。地元の人で賑わうローカルレストランでは、おばちゃん達が入れ替わり立ち代りやってきて、

「あんた達結婚してるの?彼氏は?」

「私なんて18で結婚して子ども4人よ!」

「レモンティーも飲みなさい!おいしいから!」

と畳み掛けてくる。言葉はほぼ通じないけれど、女同士の会話はどこへ行ってもこんな感じで盛り上がるものだ。ここのスープと小さなダンプリングが美味しすぎて、永遠に食べていたかった。

秘密の花園・ハマム体験

ブハラでのメインイベントは「ハマム」。一体なんだかよく分からないけれど、岩盤浴とマッサージのようなものと聞いていた。予約時間になったので、店へ向かうと、お土産屋さんの横に“bath house/open“と看板があるのを見つける。奥まったところに入口があり、開けようとするが錠がかかっていて一向に開かない。ガチャガチャやっていると、中から上裸姿にタオルを巻いただけのヒゲのお兄さんがぬらりと現れた。一瞬たじろぎながらも、予約した旨を伝えて中に入れてくれと頼む。すると、上裸男は訝しげな顔で私たちを眺めたあと、オーナーらしき無愛想なおじさんと何やら相談をし始めた。不安を覚えながらもこっそり中を覗いてみると、同じく上裸の、西洋人男性ばかり。おかしい。何かがおかしい。聞けばハマムというのは、昔、王様が美少年を買春するために造った秘密の花園だという。ここに美少年の姿はないけれど・・・・裸のおじさんしかいないけれど・・・・・良からぬ妄想と心配で不安が募る。

数分後、上裸男とオーナーの話し合いが終わり、ついに中に入れてもらう。おじさん達からの視線を見て見ぬふりしながら、着替え室に向かう。ここでTシャツ・短パンに着替えるらしい。全員、腹を括って服を脱ぎ始めたところで、誰かの電話が鳴った。すると、「今ツアー会社から電話があって、ここ、違うハマムでした・・・ちゃんと女性用のハマムを予約してるんで移動しましょう!」とのこと。そういうことだったのか。猛烈な勢いで着替えて、お金を返してもらい、予約していたという当初のハマムへ走る。ブハラの街を、4人の日本人が髪を振り乱しながら一心不乱に走る。

2つ目のハマムに到着すると、ベテランの風格を漂わせるおばあちゃんが笑顔で出迎えてくれた。その背後には、恰幅の良い上裸・パンツ姿のおばちゃん達。木のロッカーに案内され、おばあちゃんの「さぁー、全員脱ぐのよ!全部脱ぐのよー!!」という号令のもと、全員スッポンポンになる。いつも職場で一緒に働いていた仲間が異国の地で真っ裸となり仁王立ちする姿には、何だか感慨深いものがあった。さて、もう何も隠すものがない私達。恥ずかしさと物珍しさでお互いにやけた笑いを浮かべながら、スチームの効いた洞窟に腰をかけて待つ。全身に玉汗が浮かんできた頃、おばちゃん達が一斉に私達の手を取り、お湯をバシャバシャと浴びせ掛けてくる。頭からも容赦なくお湯をかけられ、全身水浸しになったら次はアカスリ。韓国の銭湯でよく使われるようなアカスリ手袋で、ワシワシと手加減無くこすられる。だいぶ際どい場所まで隈なく磨かれると、髪を洗ってしばらく待機。最後はうつ伏せになって泡マッサージということで、全員あられもない姿を晒し合いながら、おばちゃんの力強いマッサージに身を委ねた。

男湯に行ってしまったことも含めて、一生忘れられない初めてのハマム体験だった。磨き上げられた身体を揺らし、私達が次に目指すは冷たいビール。ブハラの夜景と共に、旅の始まりに祝杯を上げに行くのだ。


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