モンゴルの羊が
スリランカでマンゴーをかじってみたら

vol.2 食生活とボディライン革命

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通算6年のモンゴル生活を経て、今度は南国スリランカに引っ越した!
マイナス30度から、プラス30度へ。
草原から、ビーチリゾートへ。
2つの国で出会った人々の暮らしを、いろいろな角度から眺めてみます。

You are what you eat. (あなたの心身はあなたが食べたものでつくられている)

この事実をこんなにも痛感したことはなかった。
スリランカに来てからというもの、私の食生活には革命が起きている。
日々口にする主なものは、マンゴー、アボカド、豆、カレー、カレー、カレー、米、カレー、卵、オクラ、ゴーヤ、カレー。

真夏の果実

熟れた実にナイフを滑らせたときの鼻に残る香り、均整の取れた酸味と甘み、潮の満ち引きのように何度も迫ってくる誘惑の渦。マンゴーは、裏路地にひっそりと佇むスナックのママのようだ。一度出会ってしまえば、通わずにはいられない。今日はやめておこうと思うほど、もっと欲しくなる。しかも、一口でマンゴーと言っても種類は豊富。全て食べたい。食べ尽くしたい。南国初心者の私は彼女たちの甘い蜜にすっかり溺れ、一心不乱に食べ続けた。

結果、太った。

熟女の糖質と高カロリーは、三十も半ばの私のボディに脂肪としてすっかり定着していた。

スパイスと欲望の日々

スリランカの人たちは1日2回ほど「ティータイム」を楽しむ習慣がある。私の職場でもスタッフが茶葉とミルクをたっぷり使った濃厚ミルクティーを振舞ってくれる。喉を通り過ぎたお茶が腹に染み渡る頃、私の脳内では血糖値の急上昇により爆音アラートが鳴り響く。濃厚ミルクティーに投入されている砂糖の量は、怖くて見れない。

さらに、私の自炊能力が高くないと知った彼女たちは、代わる代わるカレーを作って持ってきてくれるようになった。スリランカカレーは、日本のカレーとは全くの別物だ。サラリとしたテクスチャーで、米とスープが滑らかに喉を通って胃に流れ込む。何種類ものスパイスが辛味・酸味・甘味・苦味・塩味を一度に演出し、食べながら毛細血管まで活性化されていくのを感じる。また、皿の上で色々な種類のカレーを自分の好きな比率で混ぜながら食べることができるため、口に運ぶ度に味が変わる。旨い。次はこの味にしよう。旨い。もっと食べたい。もっと、もっと。

結果、太った。

スパイスにコーティングされた炭水化物の塊は、三十も半ばの私の腹回りをきれいにコーティングしていた。

モンゴルボディスペシャル

もちろん、モンゴルでも増量とボディラインの拡張はあった。

伝統的なモンゴル料理と言えば、

肉(羊)、肉(牛)、肉(その他)、小麦粉、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、乳製品、ウォッカ。

これを毎日続けていたら、私も今頃「小さな力士」さながらのフォルムになっていたかもしれない。救いだったのは、ウランバートルでは日本の食材や調味料が比較的簡単に手に入り、自宅での食事がずっと日本食中心だったこと。

そういえば、私が初めてモンゴルを訪れた2007年、留学仲間の日本人の女の子が1か月ほど遊牧民のゲルにホームステイをしたことがあった。背が高くてとても華奢だった彼女が草原から帰ってきた日の衝撃を、私はいまだに忘れることができない。細かった肩はテニスボールを入れたように盛り上がり、上腕二頭筋には小さなフタコブラクダがくっついていた。白かった肌は香ばしく焼き上がり、倍の大きさになった背中は神々しいオーラを放っていた。草原にいる間、彼女は毎日肉を食べ、水を汲み、家畜を追いかけて暮らしていたらしい。

今の私に必要なのは、まさにこれではないか。既に十分な贅肉を蓄えた今の体で遊牧修行に出れば、1か月で彼女のような精悍なボディを手に入れることができるに違いない。

そんなタラレバ願望が浮かんでくるけれど、私は今、熟女マンゴーとスパイスに囲まれている。現実にやれることをやるしかないと、ジム通いを始めた。スリランカでもフタコブラクダに会えることを目指して。

この記事はモンゴル貿易開発銀行東京駐在員事務所ウェブサイトに寄稿した2021年11月29日付の記事を編集のうえ掲載しています。